定期借地借家権について
香港は、英国が中国から100年の定期借地で借りていましたが、1997年7月、なんら大きなトラブルもなく、英国は香港をアジアを代表する近代都市として生まれ変え返還したのです。
いま、わが国の不動産をめぐる環境は大きく変化しています。
土地神話が崩壊した今日、「所有」から「利用」へと土地に対する意識も変わりつつあります。こうした中で、「ウサギ小屋」から「100年住宅」の考え方は、ようやく日本の住宅市場が新時代への移行期に入ったといっても過言ではないと思われます。
加えて、平成20年の法改正で、事業用定期借地権の設定期間が10年以上20年未満から10年以上50年未満に延長されたことは、耐用年数の短い店舗や工場だったりしたものから耐久性をもちメンテナンスの容易な安全性の高い環境重視の建築物となり、借地権者にとってはより長期的な投資回収が可能になった法改正の意義は大きいと思われます。
【注意】借地借家法改正につき、事業用借地権の設定期間が変わりました。詳細はこちら
ユーザーのメリット
定期借地権で土地の取得費が安く済めば、その分を住宅に回すことができます。定期借地権のもう一つの重要な役割は、その予算的余裕分をより広い、質の高い、堅牢な住宅取得に回せます。したがって、平均的な収入の家庭でもようやく欧米先進国並みの住宅を購入することができるのです。
土地所有権者のメリット
「普通借地権」のように、
(Ⅰ)一度貸したら容易に返ってこない
(Ⅱ)返還を求めるのに、立退料を払わなければならない
(Ⅲ)継続賃料は低く抑えられる(物価スライドが原則)
「定期借地権」は、(Ⅰ)契約期間が終了すれば、必ず地主に土地が戻ってくる借地権である。
これまでのように、借金をしてアパートを建てて相続税評価を低くするという古典的な相続税対策は通用しにくくなっています。
定期借地権では土地をキャッシュフロー化し、納税対策を考えるような新しい発想が必要なのです。
特に、三大都市圏の市街化区域内農地を持つ農家は、生産緑地法の改正でやむなく宅地化はしたものの、駅から遠いため事業採算がとりにくい二等地、三等地もかなり保有しています。
しかし、現状ではそうした土地でも保有コストが重くのしかかっており、なんらかの有効活用をしなければならなくなってきています。
そこにも定期借地の出番があるのです。
■定期借地権
平成3年 借地借家法制定(平成4年8月施行)
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(Ⅰ)一般定期借地権(50年以上)
・公正証書等の書面が要件。(公正証書でなくてもよい。)
・建物買取請求権を特約で排除が可能。
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(Ⅱ)建物譲渡特約付 定期借地権(30年以上)
・契約終了時に、地主が借地人の建物を買い取る。
・書面が要件とはされていないが、現実には契約書なしで合意しても定期借地と認定されるのは難しい。
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(Ⅲ)事業用定期借地権(10年~50年未満)→(法改正 平成20年1月1日施行)
・公正証書が要件(ほかの2タイプとは違う)
・事業用にしか認められない。
・建物買取請求権を特約で排除される。
・30年以上から50年未満のところで、借地借家法と民法の基本を理解(やや難解)
事業用定期借地権(更地返還強制型) | 事業用借地権(任意契約型) | |
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借地期間の存続期間 | 10年以上30年未満 | 10年以上50年未満 |
権利の内容 | 建物再建築による存続期間の延長が自動的に排除され、建物買取請求権もないため、機関満了時に更地返還が強制される | 3つの特約が有効 (Ⅰ)更新しない (Ⅱ)建物再建築に伴う存続期間を延長しない (Ⅲ)建物買取請求権を行使しない |
契約期間満了時の処理 | 借地人は建物を収去し、更地にして返還する | 借地人は建物を収去し、更地にして返還するのが原則 |
契約方式 | 賃貸借契約を公正証書でしなければならない | 賃貸借契約を公正証書でしなければならない |
現状の運用
(I)一般定期借地権(50年以上)
公正証書等の書面が要件。(公正証書でなくてもよい。)
建物買取請求権を特約で排除が可能。【問題点】
建物所有権譲渡における借地権設定者の承諾をとる契約のケースが障害
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(Ⅱ)建物譲渡特約付 定期借地権(30年以上)
実際の利用=住宅・事業用施設の両方ありえるが、あまり利用されていない。 建物買取請求権を特約で排除が可能。
【問題点】
住宅の場合、建物買取におけるガイドラインが不透明。
事業用の場合、10年から50年未満の事業用定期借地を選択するケースが増えると思われる。 -
(Ⅲ)事業用定期借地権(10年~50年未満)
最も多く使われている。実際の利用=商業集積地やロードサイドの広い面積で利用されている。
保証金と賃料は需給バランスによってそれぞれ違う。
賃料は、更地価格の年2~4%のケースが多い。
■定期借家権
平成3年 借地借家法制定(平成4年8月施行)
平成11年 借地借家法改正(平成12年3月施行)
要点
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(Ⅰ)契約は期間の定めをする場合に限る(38条1項)
不確定期限はダメ(借主が死ぬまで等)
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(Ⅱ)契約は更新がない(双方合意の契約書による再契約はよい)
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(Ⅲ)契約は期間満了で必ず終了(正当事由も立退き料もいらない)
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(Ⅳ)契約は書面の必要性(公正証書等がよいが、なくてもよい)
(Ⅴ)契約書以外に説明文書の必要性
家主は、事前に、書面を交付して、定期借家契約である旨を説明しなければならない(38条2項)
怠ると普通借家契約となる(38条3項)【実務処理】
説明用の書面を交付し、その受領文言の入った書面の控えに借家人の署名と日付を記入させる。
定期借家契約書にも、説明文書受領の確認文書をいれておく。-
(Ⅵ)契約終了時の通知義務
終了の1年から6ヶ月前に定期借家契約を終了させる旨の通知を行わなくてはならない。
怠ると、契約終了が先に延びる。 -
(Ⅶ)賃借人からの中途解約特例
床面積200平方メートル未満の居住用のものについては、中途解約の特約がなくとも、転勤、療養、親族の介護、その他のやむをえない事情による解約の申し入れをすると、申し入れの日から1ヶ月経過後に契約が終了する。(38条5項)
逆に、これ以外は中途解約条項がないと中途解約できなくなる。
したがって、借家人側の場合は、必ず中途解約条項を入れるべきである。 -
(Ⅷ)賃料自動改定条項の効力承認
賃料についての自動改定特約は有効(38条7項)
普通借家契約では、裁判所で自動改定条項が無効とされることがあったので、これの特例を認めたものである。 -
(Ⅸ)期間の制約がない
【注意】20年超・・・有効(民法の特例、普通借家および定期借家)
【注意】1年未満・・・有効(定期借家のみ)(38条1項2文) -
(Ⅹ)定期借家契約への切り替えの制限
既存の普通借家契約を合意により解約し、新たに定期借家契約を設定することはできる(切り替え)
しかし、既存の住居用普通借家契約を定期借家契約に「更改」することはできない。